交通事故の被害に遭われた方が、ケガの治療のために仕事を休んだ場合、その間の減収を補償するものが「休業損害」です。一般的な会社員など(給与所得者)であれば、休んだ日数に応じて金額が比較的に簡単に計算されることが多いですが、被害者が「会社の取締役や監査役などの役員」である場合、休業損害の請求は一気に複雑になります。
休業損害とは、傷害事故によって被害者が治療または療養のために仕事を休むことや不十分な就業を余儀なくされたことによって、症状固定時期までの間に生じた収入の減少のこと
「役員だから休業損害はもらえない」と言われて諦めてしまう方もいらっしゃいますが、決してそんなことはありません。ただし、会社員とは異なる「役員ならではの特殊なルール」を理解しておく必要があります。
今回は、会社役員の休業損害について、算定方法や認められるための重要なポイントを分かりやすく解説します。この記事では、会社役員の休業損害について掘り下げて書いていますが、休業損害の全体像を知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。

会社役員の休業損害は揉めやすい
一般的な会社員(給与所得者)の場合、仕事を休んだ分だけ基本給や手当が減額されるため、「休業=減収(損害)」という因果関係が非常に明確です。

しかし、被害者が会社の取締役などの役員である場合、保険会社との間でトラブルになりやすく、支払いを拒否されたり不当に低い金額を提示されたりするケースが後を絶ちません。その理由は、役員が受け取る「役員報酬」の特殊な性質にあります。
- 仕事を休んでも、役員報酬が減額されないことが多い
- 役員報酬には「労働の対価ではない部分」が含まれている
役員の報酬は、労働基準法上の給与とは異なり、株主総会や取締役会で決定されるため、数日間休んだからといってすぐに翌月の支給額が減るケースは稀です。
役員報酬を期中に変更(減額)すると、「定期同額給与」の要件を満たさなくなり、改定前に支給していた額の一部(減額前の高い部分など)が損金(会社の経費)として認められなくなるリスクがあります。交通事故により長期間職務を遂行できなくなった場合などは、税法上も例外的な役員報酬の変更(減額)が認められるケースがあります。
参考:No.5211 役員に対する給与 国税庁
役員報酬画像
役員報酬は「労務提供の対価部分」と「利益配当的部分」の2つで構成されています。このうち「利益配当的部分」は労働していなくても受け取れる「役員という立場に対する報酬」なので、交通事故の休業損害の対象とはなりません。休業損害の対象となるのは「労務提供の対価部分」のみとなります。
労務提供の対価部分と利益配当的部分の判断基準
役員報酬には「労務提供の対価部分と利益配当的部分を何対何とする」と決められた基準はありません。交通事故被害者の実態に即して、休業損害の対象となる「労務提供の対価部分」は判断されます。考慮される要素とは、以下の通りです。
- 会社の規模
- 会社の利益状況
- 株主構成(同族会社・上場企業など)
- 当該役員の地位・職務内容・年齢
- 役員報酬の金額
- 事故後の役員報酬額の推移
- 類似法人の役員報酬の支給状況 など
会社役員の労務提供の対価部分を算定するには専門的な判断が必要とされるため、税理士や会計士に休業損害の調査を行ってもらうこともあります。
実質的な個人経営に近い小規模会社の場合などは、役員報酬の全額を「労務の対価」と認められやすく、算定方法も自営業(個人事業主)に準じた方法で行うことがあります。
参考:自営業者(個人事業主)の休業損害について
会社が受けた損害を請求する
会社役員が怪我で仕事を休んでいる間も、会社からこれまで通り役員報酬が支払われていた場合、役員個人には「減収」がないため、原則として休業損害は請求できません。
しかし、社長や役員が動けないことで、「会社の売上が大きく落ちてしまった」「代わりに業務をこなすアルバイトを雇ったり、外注したりして余計な経費がかさんだ」というケースは非常に多いはずです。
このように、役員個人ではなく「会社」に実質的な大打撃があった場合は、会社の損害(企業損害)として保険会社へ賠償を請求できる可能性があります。
損害が認められるための条件
ただし、どんな会社でも請求できるわけではありません。裁判などで「会社の損害」が認められるには、主に以下の条件を満たしている必要があります。
- 個人経営に近い小規模会社である
- 会社役員の代わりとなる人材がいない
- 会社役員と会社が経済的に同一の関係にある
つまり、「名目上は株式会社などの法人になっているけれど、実態は個人事業主と大差ない」と言えるような会社であることがポイントになります。大企業のように、社長が1人休んでも組織として業務が回り、売上に直接響かないようなケースでは、会社としての請求は認められにくくなります。
手続きや立証のハードルは高いですが、小さな会社の経営者にとっては死活問題となる部分です。もしこのような状況に当てはまる場合は、諦めずに弁護士へ相談することをおすすめします。
会社役員(経営者など)が交通事故に遭ったら
会社員とは異なり、会社役員(経営者など)が交通事故に遭った場合の休業損害の請求には、クリアすべきハードルがいくつも存在します。
- 役員報酬のうち「労務提供の対価部分」がどれだけあるか
- 実際に報酬の減額(減収)が発生しているか
- 「会社」としての損害(企業損害)を立証できるか
専門知識がない状態で、これらのハードルを越えて保険会社と対等に交渉するのは極めて困難です。保険会社から「役員だから」という理由で一蹴され、そのまま諦めてしまう被害者の方も後を絶ちません。小さな会社の経営者にとって、自身が働けなくなることは会社全体の死活問題に直結します。
保険会社の提示に納得がいかない方は、お気軽に仙台青葉ゆかり法律事務所にご相談ください。複雑な休業損害の適切な立証はもちろん、後遺障害等級認定や示談交渉など、揉めやすいポイントにおいて最適な解決策をご提案いたします。

